通常損耗とは?
読み方: つうじょうそんもう
最終更新: 2026年5月16日 | 出典: 国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」
定義
通常損耗(つうじょうそんもう)とは、賃借人の通常の使用により生じる建物の損耗のことです。時間の経過による自然な劣化である「経年変化(経年劣化)」も含めて、退去費用では貸主負担が原則となります。
詳しく解説
通常損耗は家賃に含まれる費用とされ、退去時に借主が別途負担する必要はありません。ガイドラインでは、通常損耗の具体例として多数の項目を列挙しています。重要なのは、「通常の使用」の範囲は一般的な生活を基準に判断されるという点です。改正民法第621条でも、通常損耗と経年変化は賃借人の原状回復義務の対象外と明記されています。
通常損耗と経年変化の違い
「通常損耗」と「経年変化(経年劣化)」は、退去費用の文脈ではどちらも貸主負担であり、実務上ほぼ同じ意味で使われます。ガイドライン自体も両者を並べて「賃貸借契約の本来の趣旨からすれば貸主負担」と整理しています。厳密には次のように区別されます。
- -通常損耗: 借主が普通に生活・使用することで生じる損耗(家具跡、手垢、画鋲穴など)。
- -経年変化: 人の使用に関わらず、時間の経過だけで自然に進む劣化(壁紙の退色、金属部の変色、パッキン劣化など)。
- -結論: どちらも「借主の故意・過失ではない」ため、退去費用として借主が負担する必要はありません。
請求書で通常損耗を見抜くコツ
請求書に「クロス張替え」「ハウスクリーニング」とだけ書かれていても、その損耗が通常損耗なら貸主負担です。判断に迷ったら「自分が特別な使い方をしていないのに発生したか?」を基準にしてください。Yesなら通常損耗の可能性が高く、減額交渉の対象になります。
通常損耗(貸主負担)と借主負担の代表例
| 損耗の例 | 区分 | 負担 |
|---|---|---|
| 壁紙の日焼け・自然な退色 | 通常損耗・経年変化 | 貸主 |
| 家具の設置跡(へこみ) | 通常損耗 | 貸主 |
| 画鋲・ピンの穴(下地に損傷なし) | 通常損耗 | 貸主 |
| タバコのヤニによる変色・臭い | 善管注意義務違反 | 借主 |
| ペットによる傷・臭い | 故意・過失 | 借主 |
| 引越し作業でつけた傷 | 故意・過失 | 借主 |
具体例
- -日照による壁紙・畳の変色・退色(通常損耗)
- -テレビ・冷蔵庫等の裏側の黒ずみ(電気ヤケ)
- -家具の設置によるカーペットのへこみ・床の跡
- -画鋲やピンの穴(下地ボードに損傷がない程度)
- -クロスの軽微な汚れ(手垢等)
- -ドアノブや蛇口の金属部分の変色(経年変化)
- -パッキン・シーリングの自然劣化、網戸の色あせ(経年変化)
- -設備機器の自然な経年劣化
退去費用との関連
退去費用の請求に通常損耗や経年変化が含まれている場合、その分は貸主負担であるべきです。請求書の各項目が通常損耗か過失かを見極めることが、退去費用を適正化する鍵です。
「通常損耗」に関連する条文・判例
本セクションは、裁判所Webサイト・e-Gov法令検索・国土交通省で公開されている一次情報を、本ページのテーマに直接関係する範囲で構造化したものです。判旨の射程・実務的含意は当編集部の解釈であり、個別事案の助言ではありません。
- 法令
識別番号: 平成29年法律第44号(民法の一部を改正する法律)
改正民法第621条(2020年4月1日施行)()
当時適用された法令: 民法第621条(賃借人の原状回復義務) / 民法第622条の2(敷金)
通常損耗・経年変化は賃借人の原状回復義務に含まれないことを法律で明文化。ガイドラインの考え方が法律レベルに引き上げられた。
判旨・条文の要点を表示
改正民法第621条本文は「賃借人は、賃借物を受け取った後にこれに生じた損傷(通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年変化を除く。)がある場合において、賃貸借が終了したときは、その損傷を原状に復する義務を負う」と定める。但書で、その損傷が賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは原状回復義務を負わない、とも明示する。これにより、通常損耗・経年変化(経年劣化)は原則として借主負担にできないことが法律で明確化された。
射程の注意: 本条は2020年4月1日以降に締結された賃貸借契約に適用される。それ以前の契約には改正前民法が適用されるが、実務上は判例法理として同様の結論が示されてきた。
- 行政指針
識別番号: 国土交通省住宅局住宅総合整備課(再改訂版)
国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」(再改訂版・平成23年8月)()
当時適用された法令: 民法第621条(賃借人の原状回復義務) / 民法第622条の2(敷金)
退去時の原状回復費用について、借主負担と貸主負担の区分・耐用年数・減価計算の基準を示した国の指針。法的拘束力はないが裁判所の判断基準として広く参照される。
判旨・条文の要点を表示
本ガイドラインは、賃貸住宅の退去時における原状回復費用の負担をめぐるトラブルを未然に防止することを目的に、国土交通省が平成10年に策定し、平成16年・平成23年に改訂したもの。法的拘束力はないが、裁判所の判断基準としても広く参照され、賃貸実務の事実上の標準となっている。別表1(損耗・毀損の事例区分・部位別一覧表)、別表2(賃借人の原状回復義務等負担一覧表)、本文p.12-14「経過年数の考慮」(クロス6年・カーペット6年・エアコン6年・流し台5年・便器15年等)を定めている。
射程の注意: 行政の指針であり、それ自体には法的強制力はない。ただし裁判例で頻繁に参照されているため、実務上の標準として位置付けられる。
- 判例
最高裁 第二小法廷 / 事件番号: 平成16年(受)第1573号
最高裁平成17年12月16日 第二小法廷判決()
当時適用された法令: 旧民法第601条(賃貸借) / 旧民法第616条(賃貸借終了時の原状回復義務に関する任意法規) / 消費者契約法第10条(消費者の利益を一方的に害する条項の無効)
現行法での対応条文: 改正民法第621条(賃借人の原状回復義務 / 2020年4月施行) / 改正民法第622条の2(敷金 / 2020年4月施行)
通常損耗の補修費用を賃借人に負担させる特約は、対象範囲が契約書に具体的に明記されるなど明確に合意されていなければ成立しない、とした事例判決。
判旨・条文の要点を表示
通常損耗(賃借物の通常の使用に伴い生ずる損耗)は本来、賃料に含まれて回収される性質のものであるから、通常損耗の補修費用を賃借人に負担させる旨の特約(通常損耗補修特約)が成立しているというためには、賃借人が補修費用の負担義務を明確に認識し、これを合意の内容としたといえる必要がある。具体的には、通常損耗の範囲が賃貸借契約書の条項自体に具体的に明記されているか、仮に明記がなくとも、賃貸人が口頭により説明し、賃借人がそれを明確に認識して合意の内容としたものと認められる必要がある、と判示した。
通常損耗補修特約の成立要件(すべての要件を満たす必要あり)
要件 要件の内容 借主側のチェックポイント 1 対象範囲の具体的明示
通常損耗のうち賃借人が補修費を負担する対象範囲が、契約書の条項自体に具体的に明記されている、または賃貸人が口頭で具体的に説明している必要がある。
「原状回復費用は借主負担」のような包括的・抽象的な記載のみで、対象項目・範囲が示されていない場合は要件を欠く可能性が高い。 2 賃借人の認識
賃借人がその特約により通常損耗の補修費を負担することを明確に認識していたといえる必要がある。
重要事項説明書での説明、特約条項を別途読み上げた等の認識形成プロセスがあったかを確認。説明を受けていない、または認識していないと立証できれば反論材料になる。 3 義務負担の意思表示(合意)
賃借人がその義務を負担することを合意の内容としたと評価できる必要がある。
署名・押印したことが直ちに合意成立を意味するものではなく、要件1・2を踏まえた「明確な合意」となっているかが問われる。 射程の注意: この判決は事例判決であり、「特約は常に無効」と一般化したものではない。要件を満たす特約は有効に成立し得る。借主が要件不充足を立証できた場合に限り、特約が成立していないと評価される。
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