- ✓原状回復の正しい定義を理解する
- ✓貸主負担になる項目を把握する
- ✓借主負担になる項目を把握する
- ✓経過年数(減価償却)の考え方を理解する
原状回復の基礎知識(何が借主負担?何が貸主負担?)
退去時に最もトラブルになりやすいのが「原状回復」の範囲です。「原状回復=入居時の状態に戻すこと」と誤解している方が多いですが、実際には通常の使用で生じた損耗(経年劣化)は貸主負担が原則。この記事では、国土交通省のガイドラインに基づいて、借主と貸主の負担範囲をわかりやすく解説します。
手順
- 1
原状回復の正しい定義を理解する
原状回復とは「借主の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損を復旧すること」です。つまり、普通に暮らしていて自然に劣化した部分(壁紙の日焼け、フローリングの軽微な傷など)は借主が負担する必要はありません。これは国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」で明確に示されています。
POINT: ガイドラインは法律ではありませんが、裁判でも判断基準として広く採用されています。管理会社との交渉時に「ガイドラインに基づいて確認したい」と伝えると効果的です。
- 2
貸主負担になる項目を把握する
以下は原則として貸主負担です。壁紙の日焼け・変色、画鋲やピンの穴(下地ボードまで達していないもの)、家具の設置跡(へこみ・跡)、フローリングのワックス剥がれ、網戸の張り替え(経年劣化)、エアコン内部の汚れ(通常使用)、鍵の取り替え(破損がない場合)。これらは経年劣化や通常損耗に該当し、月々の家賃に含まれていると考えられています。
POINT: 管理会社から請求された項目がこのリストに含まれている場合は、「ガイドライン上、貸主負担ではないでしょうか」と問い合わせましょう。
- 3
借主負担になる項目を把握する
以下は借主負担となります。タバコのヤニによる壁紙の変色・臭い、ペットによる傷・臭い、引越し時につけた傷、釘穴やネジ穴(下地ボードまで達しているもの)、結露を放置したことによるカビ、清掃を怠ったことによる油汚れ・水垢。これらは通常の使用を超えた損耗、または善管注意義務違反に該当します。
POINT: 借主負担であっても、経過年数による減価償却を考慮した金額が妥当です。新品の費用を全額請求されている場合は減額交渉の余地があります。
- 4
経過年数(減価償却)の考え方を理解する
借主負担の修繕であっても、設備の経過年数に応じて負担割合が減ります。例えば壁紙(クロス)の耐用年数は6年。入居から6年以上経過している場合、壁紙の残存価値は1円(ほぼゼロ)となり、借主の故意・過失による損傷でも負担額はごくわずかです。入居3年なら残存価値は約50%となります。
POINT: 減価償却の計算方法がわからない場合は、退去費用 払いすぎ診断の減価償却計算ツールを使えば、入居年数を入力するだけで設備ごとの残存価値がわかります。
- 5
特約の有効性を確認する
契約書に「ハウスクリーニング費用は借主負担」「エアコン洗浄費用は借主負担」などの特約がある場合は原則として有効です。ただし、特約が有効と認められるには「借主が十分に理解して合意していること」「金額が明示されていること」「借主に一方的に不利でないこと」の3条件を満たす必要があります。
POINT: 特約に金額が明示されていない場合(例:「実費負担」としか書かれていない場合)は、請求額が妥当かどうかを相場と比較して確認しましょう。
- 6
請求書と実際の損耗を照合する
管理会社から届いた請求書の各項目について、実際に自分が原因で発生した損耗かどうかを一つずつ照合しましょう。入居時からあった傷、経年劣化による損耗、次の入居者のためのグレードアップ(設備の新品交換など)が含まれていないか確認します。不明な項目は管理会社に根拠を求めてください。
POINT: 請求書の写真を撮って退去費用 払いすぎ診断にアップロードすると、各項目の妥当性をAIが判定し、交渉用のレポートを自動生成します。
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無料で退去費用を診断する通常損耗と借主の故意・過失はどう区別する?
改正民法第621条本文は「通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年変化」を借主の原状回復義務から除外しています。判断軸は3つ: (1)予見可能性=借主が予見できたか、(2)回避可能性=通常の注意で防げたか、(3)因果関係=借主の行為が直接の原因か。すべて Yes なら善管注意義務違反(民法第400条)として借主負担、いずれかが No なら通常損耗として貸主負担です。
特約があれば全部借主負担になる?
いいえ。最高裁平成17年12月16日 第二小法廷判決は、通常損耗補修特約が成立するには3要件(対象範囲の具体的明示・賃借人の認識・義務負担の意思表示)をすべて満たす必要があるとしました。「全額借主負担」「原状回復費用は借主負担」のような包括的・抽象的な記載は要件1を欠く可能性が高く、特約として成立していないと主張する余地があります。
条文・判例で確認するこの論点の根拠
本セクションは、裁判所Webサイト・e-Gov法令検索・国土交通省で公開されている一次情報を、本ページのテーマに直接関係する範囲で構造化したものです。判旨の射程・実務的含意は当編集部の解釈であり、個別事案の助言ではありません。
- 法令
識別番号: 平成29年法律第44号(民法の一部を改正する法律)
改正民法第621条(2020年4月1日施行)()
当時適用された法令: 民法第621条(賃借人の原状回復義務) / 民法第622条の2(敷金)
通常損耗・経年変化は賃借人の原状回復義務に含まれないことを法律で明文化。ガイドラインの考え方が法律レベルに引き上げられた。
判旨・条文の要点を表示
改正民法第621条本文は「賃借人は、賃借物を受け取った後にこれに生じた損傷(通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年変化を除く。)がある場合において、賃貸借が終了したときは、その損傷を原状に復する義務を負う」と定める。但書で、その損傷が賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは原状回復義務を負わない、とも明示する。これにより、通常損耗・経年変化(経年劣化)は原則として借主負担にできないことが法律で明確化された。
射程の注意: 本条は2020年4月1日以降に締結された賃貸借契約に適用される。それ以前の契約には改正前民法が適用されるが、実務上は判例法理として同様の結論が示されてきた。
- 法令
識別番号: 民法(明治29年法律第89号 / 2020年4月施行 改正後)
民法第400条(特定物の引渡しの場合の注意義務)()
当時適用された法令: 民法第400条(注意義務) / 民法第621条(賃借人の原状回復義務)
債権の目的が特定物の引渡しであるときは、債務者は、その引渡しをするまで、契約その他の債権の発生原因及び取引上の社会通念に照らして定まる善良な管理者の注意をもって、その物を保存しなければならない。
判旨・条文の要点を表示
改正民法第400条は「債権の目的が特定物の引渡しであるときは、債務者は、その引渡しをするまで、契約その他の債権の発生原因及び取引上の社会通念に照らして定まる善良な管理者の注意をもって、その物を保存しなければならない」と定める。賃貸借契約においては、賃借人が物件を「善良な管理者の注意」をもって使用する義務(善管注意義務)の根拠規定として参照される。違反した場合の損耗は借主負担(原状回復対象)となる一方、通常の使用範囲内の損耗は義務違反にあたらず、貸主負担となる。
射程の注意: 「予見可能性」「回避可能性」「因果関係」の3つで義務違反の有無を切り分ける実務運用が一般的。タバコのヤニ・ペット過失・結露放置等は典型的な違反例。
- 判例
最高裁 第二小法廷 / 事件番号: 平成16年(受)第1573号
最高裁平成17年12月16日 第二小法廷判決()
当時適用された法令: 旧民法第601条(賃貸借) / 旧民法第616条(賃貸借終了時の原状回復義務に関する任意法規) / 消費者契約法第10条(消費者の利益を一方的に害する条項の無効)
現行法での対応条文: 改正民法第621条(賃借人の原状回復義務 / 2020年4月施行) / 改正民法第622条の2(敷金 / 2020年4月施行)
通常損耗の補修費用を賃借人に負担させる特約は、対象範囲が契約書に具体的に明記されるなど明確に合意されていなければ成立しない、とした事例判決。
判旨・条文の要点を表示
通常損耗(賃借物の通常の使用に伴い生ずる損耗)は本来、賃料に含まれて回収される性質のものであるから、通常損耗の補修費用を賃借人に負担させる旨の特約(通常損耗補修特約)が成立しているというためには、賃借人が補修費用の負担義務を明確に認識し、これを合意の内容としたといえる必要がある。具体的には、通常損耗の範囲が賃貸借契約書の条項自体に具体的に明記されているか、仮に明記がなくとも、賃貸人が口頭により説明し、賃借人がそれを明確に認識して合意の内容としたものと認められる必要がある、と判示した。
通常損耗補修特約の成立要件(すべての要件を満たす必要あり)
要件 要件の内容 借主側のチェックポイント 1 対象範囲の具体的明示
通常損耗のうち賃借人が補修費を負担する対象範囲が、契約書の条項自体に具体的に明記されている、または賃貸人が口頭で具体的に説明している必要がある。
「原状回復費用は借主負担」のような包括的・抽象的な記載のみで、対象項目・範囲が示されていない場合は要件を欠く可能性が高い。 2 賃借人の認識
賃借人がその特約により通常損耗の補修費を負担することを明確に認識していたといえる必要がある。
重要事項説明書での説明、特約条項を別途読み上げた等の認識形成プロセスがあったかを確認。説明を受けていない、または認識していないと立証できれば反論材料になる。 3 義務負担の意思表示(合意)
賃借人がその義務を負担することを合意の内容としたと評価できる必要がある。
署名・押印したことが直ちに合意成立を意味するものではなく、要件1・2を踏まえた「明確な合意」となっているかが問われる。 射程の注意: この判決は事例判決であり、「特約は常に無効」と一般化したものではない。要件を満たす特約は有効に成立し得る。借主が要件不充足を立証できた場合に限り、特約が成立していないと評価される。
- 行政指針
識別番号: 国土交通省住宅局住宅総合整備課(再改訂版)
国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」(再改訂版・平成23年8月)()
当時適用された法令: 民法第621条(賃借人の原状回復義務) / 民法第622条の2(敷金)
退去時の原状回復費用について、借主負担と貸主負担の区分・耐用年数・減価計算の基準を示した国の指針。法的拘束力はないが裁判所の判断基準として広く参照される。
判旨・条文の要点を表示
本ガイドラインは、賃貸住宅の退去時における原状回復費用の負担をめぐるトラブルを未然に防止することを目的に、国土交通省が平成10年に策定し、平成16年・平成23年に改訂したもの。法的拘束力はないが、裁判所の判断基準としても広く参照され、賃貸実務の事実上の標準となっている。別表1(損耗・毀損の事例区分・部位別一覧表)、別表2(賃借人の原状回復義務等負担一覧表)、本文p.12-14「経過年数の考慮」(クロス6年・カーペット6年・エアコン6年・流し台5年・便器15年等)を定めている。
射程の注意: 行政の指針であり、それ自体には法的強制力はない。ただし裁判例で頻繁に参照されているため、実務上の標準として位置付けられる。
よくある質問
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