- ✓結論: 借主の故意・過失による損耗は原状回復(借主負担)、時間の経過や通常使用による損耗は経年劣化(貸主負担)です。借主負担でも減価計算で負担額は軽減されます。
- ✓定義で比較
- ✓壁紙(クロス)の例で比較
- ✓フローリングの例で比較
原状回復 vs 経年劣化|借主負担の範囲をガイドライン準拠で比較
結論: 借主の故意・過失による損耗は原状回復(借主負担)、時間の経過や通常使用による損耗は経年劣化(貸主負担)です。借主負担でも減価計算で負担額は軽減されます。
推奨判断
→ ケースバイケース(両者を組み合わせて判断)
根拠(条文・判例・実務)
改正民法第621条本文は通常損耗・経年変化を借主の原状回復義務から除外している。国交省ガイドライン別表第2・第3が具体的な負担区分の標準を、別表第5が耐用年数(クロス6年・CF6年・カーペット6年・エアコン6年)を示す。
判断前の注意点
「借主負担=原状回復」でも、耐用年数経過分は残存価値1円で実質ゼロまで減価する。borderline ケース(タバコのヤニ、ペット過失、結露放置)は善管注意義務違反(民法第400条)で借主負担側に振れる。
退去費用のトラブルの多くは「原状回復」と「経年劣化」の境界線を正しく理解していないことから起こります。国交省ガイドラインでは明確に区分されていますが、管理会社の請求では混同されていることが少なくありません。この比較を理解することで、退去費用が適正かどうかを自分で判断できるようになります。
原状回復(借主負担) vs 経年劣化(貸主負担) 比較表
| 比較項目 | 原状回復(借主負担) | 経年劣化(貸主負担) |
|---|---|---|
| 定義 | 借主の故意・過失、善管注意義務違反による損耗を元に戻すこと。「通常の使用を超えた損耗」が対象。 | 時間の経過や通常の使用により自然に生じる損耗。建物や設備の価値が自然に減少すること。 |
| 壁紙(クロス)の例 | タバコのヤニによる変色、子どもの落書き、釘穴・ネジ穴(大きなもの)、ペットの引っかき傷。 | 日焼けによる変色、画鋲・ピン穴(通常の範囲)、テレビ裏の電気焼け、エアコン設置跡。 |
| フローリングの例 | 引越し作業中の傷、飲み物をこぼしたシミ(放置)、キャスター椅子による広範な傷、ペットの爪傷。 | 家具の設置跡(へこみ)、日焼けによる色あせ、ワックスの自然な摩耗、生活動線上の通常の擦り傷。 |
| 設備の例 | 使い方の問題による故障(換気扇、給湯器等)、乱暴な使用による破損。 | 耐用年数を超えた設備の劣化、経年による動作不良、通常使用での消耗。 |
| 減価償却の適用 | 借主負担であっても減価償却が適用される。例: クロス耐用年数6年、入居3年なら残存価値50%のみ負担。 | そもそも貸主負担のため減価償却の計算は不要。全額が貸主の負担。 |
| トラブルになりやすいポイント | 借主負担の項目でも減価償却が考慮されていない全額請求が多い。入居時の状態が不明で争いになるケースも。 | 経年劣化なのに借主負担として請求されるケースが非常に多い。知識がないと不当請求を見抜けない。 |
原状回復(借主負担)が向いているケース
- ✓タバコを吸っていた部屋の壁紙が変色している
- ✓ペットを飼育して壁や床に傷がある
- ✓引越し作業で設備を破損してしまった
- ✓水漏れを放置してカビが発生した
経年劣化(貸主負担)が向いているケース
- ✓日焼けで壁紙が変色しただけ
- ✓家具の設置跡がフローリングにある
- ✓入居から5年以上経過している
- ✓普通に生活していただけで特別な損傷はない
退去費用 払いすぎ診断のおすすめ
退去費用 払いすぎ診断は、国交省ガイドラインの負担区分に基づいて、各請求項目が原状回復の対象か経年劣化かを自動判定します。さらに、借主負担の項目には適切な減価償却を適用した参考計算値を算出。30秒の無料診断で、不当な請求を見抜くことができます。
タバコのヤニで全面張替えされた場合の判断基準は?
タバコのヤニは民法第400条の善管注意義務違反として借主負担になります。ただしガイドライン別表第3は補修単位を「最低限の施工単位=一面」と整理しており、汚損が部屋全体に及んでいない限り部屋全面張替えは過大計上の可能性が高くなります。また別表第5の耐用年数6年で減価が適用されるため、入居6年以上なら残存価値1円で実質ゼロ、入居3年なら残存価値50%が借主負担の上限です。
経年劣化として認められやすい具体例は?
ガイドライン別表第2が貸主負担として整理する典型例: 壁紙の日焼け・自然な退色、家具設置によるカーペットのへこみ、画鋲・ピン穴(下地ボードに損傷なし)、テレビ・冷蔵庫裏の電気焼け、設備機器の自然な経年劣化。改正民法第621条本文の「通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年変化」に該当し、借主の原状回復義務の対象外です。
条文・判例で確認するこの論点の根拠
本セクションは、裁判所Webサイト・e-Gov法令検索・国土交通省で公開されている一次情報を、本ページのテーマに直接関係する範囲で構造化したものです。判旨の射程・実務的含意は当編集部の解釈であり、個別事案の助言ではありません。
- 法令
識別番号: 平成29年法律第44号(民法の一部を改正する法律)
改正民法第621条(2020年4月1日施行)()
当時適用された法令: 民法第621条(賃借人の原状回復義務) / 民法第622条の2(敷金)
通常損耗・経年変化は賃借人の原状回復義務に含まれないことを法律で明文化。ガイドラインの考え方が法律レベルに引き上げられた。
判旨・条文の要点を表示
改正民法第621条本文は「賃借人は、賃借物を受け取った後にこれに生じた損傷(通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年変化を除く。)がある場合において、賃貸借が終了したときは、その損傷を原状に復する義務を負う」と定める。但書で、その損傷が賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは原状回復義務を負わない、とも明示する。これにより、通常損耗・経年変化(経年劣化)は原則として借主負担にできないことが法律で明確化された。
射程の注意: 本条は2020年4月1日以降に締結された賃貸借契約に適用される。それ以前の契約には改正前民法が適用されるが、実務上は判例法理として同様の結論が示されてきた。
- 行政指針
識別番号: 国土交通省住宅局住宅総合整備課(再改訂版)
国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」(再改訂版・平成23年8月)()
当時適用された法令: 民法第621条(賃借人の原状回復義務) / 民法第622条の2(敷金)
退去時の原状回復費用について、借主負担と貸主負担の区分・耐用年数・減価計算の基準を示した国の指針。法的拘束力はないが裁判所の判断基準として広く参照される。
判旨・条文の要点を表示
本ガイドラインは、賃貸住宅の退去時における原状回復費用の負担をめぐるトラブルを未然に防止することを目的に、国土交通省が平成10年に策定し、平成16年・平成23年に改訂したもの。法的拘束力はないが、裁判所の判断基準としても広く参照され、賃貸実務の事実上の標準となっている。別表1(損耗・毀損の事例区分・部位別一覧表)、別表2(賃借人の原状回復義務等負担一覧表)、本文p.12-14「経過年数の考慮」(クロス6年・カーペット6年・エアコン6年・流し台5年・便器15年等)を定めている。
射程の注意: 行政の指針であり、それ自体には法的強制力はない。ただし裁判例で頻繁に参照されているため、実務上の標準として位置付けられる。
- 法令
識別番号: 民法(明治29年法律第89号 / 2020年4月施行 改正後)
民法第400条(特定物の引渡しの場合の注意義務)()
当時適用された法令: 民法第400条(注意義務) / 民法第621条(賃借人の原状回復義務)
債権の目的が特定物の引渡しであるときは、債務者は、その引渡しをするまで、契約その他の債権の発生原因及び取引上の社会通念に照らして定まる善良な管理者の注意をもって、その物を保存しなければならない。
判旨・条文の要点を表示
改正民法第400条は「債権の目的が特定物の引渡しであるときは、債務者は、その引渡しをするまで、契約その他の債権の発生原因及び取引上の社会通念に照らして定まる善良な管理者の注意をもって、その物を保存しなければならない」と定める。賃貸借契約においては、賃借人が物件を「善良な管理者の注意」をもって使用する義務(善管注意義務)の根拠規定として参照される。違反した場合の損耗は借主負担(原状回復対象)となる一方、通常の使用範囲内の損耗は義務違反にあたらず、貸主負担となる。
射程の注意: 「予見可能性」「回避可能性」「因果関係」の3つで義務違反の有無を切り分ける実務運用が一般的。タバコのヤニ・ペット過失・結露放置等は典型的な違反例。
- 判例
高裁 / 識別表記(事件番号未公表のため裁判所・判決日表記を採用): 大阪高判平成21年6月12日
大阪高裁平成21年6月12日判決()
当時適用された法令: 旧民法第616条(賃貸借終了時の原状回復義務に関する任意法規) / 旧民法第597条1項・第598条(用法に従った使用・原状回復)
現行法での対応条文: 改正民法第621条(賃借人の原状回復義務 / 2020年4月施行) / 改正民法第622条の2(敷金 / 2020年4月施行)
補修によって特別損耗のみならず通常損耗をも回復することになる場合、賃借人が負担する費用から、通常損耗による減価部分を除外することが相当とした事例。
判旨・条文の要点を表示
本判決は、賃借人が補修を要する特別損耗(善管注意義務違反などによる損耗)を生じさせた場合でも、その補修によって特別損耗のみならず通常損耗(経年劣化)をも回復することになるのであれば、賃借人が負担する費用から通常損耗による減価部分を除外することが相当である、と判示した。すなわち「同時補修される通常損耗分を借主負担から差し引く」原則を確認した重要な高裁判決である。また敷金返還義務の履行期は建物明渡時とされた。
射程の注意: 本判決は通常損耗と特別損耗が同時に存在する場合の費用算定方法を示したもの。借主は「補修費用全額」を負担するのではなく、減価分を差し引いた額を負担するに留まる。
- 判例
地裁 / 識別表記(事件番号未公表のため裁判所・判決日表記を採用): 東京地判平成28年12月20日
東京地裁平成28年12月20日判決()
当時適用された法令: 旧民法第400条(特定物の引渡しの場合の注意義務 / 改正前) / 旧民法第616条(賃貸借終了時の原状回復義務に関する任意法規)
現行法での対応条文: 改正民法第621条(賃借人の原状回復義務 / 2020年4月施行) / 改正民法第400条(特定物の引渡しの場合の注意義務 / 2020年4月施行後)
6年の耐用年数を経過した壁クロスの張替費用について、「耐用年数経過後だから原状回復義務はない」とする賃借人の主張が、本件の事案では否定された事例。
判旨・条文の要点を表示
本判決は、賃借人が「6年の耐用年数を経過する壁クロス張替費用等の原状回復義務はない」と主張したのに対し、本件の具体的な事情の下では当該主張を採用せず、原状回復義務の一部を認めた事例である。一般に国交省ガイドラインの耐用年数表(クロス6年)を適用すると、6年経過後の残存価値はほぼゼロに近づき借主負担はわずかにとどまるが、賃借人の使用態様や善管注意義務違反の程度によっては、耐用年数経過後でも一定の負担が認められうることを示す。
射程の注意: 「耐用年数経過後=借主負担ゼロ」と一律に主張するのは危険。本判決のように、使用態様により耐用年数経過後も一定の負担が認められるケースがある。借主が損耗を生じさせた事実があるなら、減価分を差し引いた合理的金額の交渉が現実的。
よくある質問
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